挿話:優しき爺

 昔々、ある村に爺様がおった。爺様は婆様を二人で仲良く暮らしておった。
爺様はそれはそれは優しかったそうな。
ある時は傷ついた鳥を看病し、またある時は、苛められた亀を助けたりしたそうな。
そんなある日のことである。
爺様と婆様は二人で山に芝刈りに行くことになった。
その道の途中蛇に食べられそうになっている蛙を見つけたそうな。
爺様は言った。
「これ蛇や。お主は蛙の気持ちを考えたことがあるか?」と。
蛇は言った。
「蛙の気持ちを考えるならおまえは俺の気持ちを考えたことがあるか?」と
爺様は悩んだ。確かに蛇の気持ちも一理ある。
そこで爺様は蛙にこう言った。
「蛙や。おまえの体を少し蛇に分けてやってはくれぬか?」と。
蛙はこう言った。
「なら、おまえさんの体を蛇にくれてやればいいだろ?」と。
爺様は頷いた。
そこで爺様は自分の体を蛇にくれてやろうと考えた。
それを見ていた婆様は慌てて言った。
「爺様や。爺様が亡くなってしまっては私はどうなるのですか?」と。
続けてこう言った。
「婆様の気持ちも考えなければいけないな。」
そこで爺様はもう一度考えた。
爺様はじっと考えた。
蛇、蛙、婆様は爺様のあまりの考えの深さに呆れるほどだった。
やがて日も暮れようかという頃だった。
鳥っこ一匹鳴かない静かな夕暮れじゃった。
爺様は徐に腰に抱えた鎌を取り出したかと思うと次の瞬間、婆様の方に振り返った。
一声の叫び声が夕焼けにこだました。
鳥たちが一斉に鳴き声をあげた。


こうして月日が流れた。
今もその道を通るたび鳴き声が聞こえるそうな。

コメント

初の挿話に挑戦。ちょこちょこ書いていきます。
思いつき書きますのでネタは何かと被るかもしれませんのでご注意。