いつものください

 朝、喫茶店で一杯のコーヒーを飲んでから出社する。それが私の日課である。一人で一杯のコーヒーを飲みながらちょっとした休息を取るのである。どうせ社内でも休息ばっかりだろ?その通りだ・・とそういう話をしたいわけではない。
 毎日同じ店に通い続けているわけである。当然、店員の方とも顔なじみだ。私の入る時刻は女性の店員が2,3名で店を切盛りしている。朝早くから御苦労さまだと感心するばかりである。ところで、私のメニューはいつも決まっている。ホットのSサイズ。そのお店でそれ以外頼んだことはない。私は夏の期間だけはアイスコーヒーを飲むことにしているのだが、その店に通い始めたのが去年の秋頃でその店でホットコーヒー以外を飲んだ事はないわけである。それはその店が開店したての頃だったわけである。
 私がそのお店に行くと、私がオーダーを言う前に「250円です。」という声が店員から返ってくるという始末である。前に一度、オーダーを頼む前にコーヒーを出してくれて「それはさすがに、どうかと・・。」と思ったことさえあった。私からすれば、何の問題もなく、その注文で間違いはないのであるが・・。普段見掛けない店員さんだったりすると、「ホットのS」と言ったりもするが、「いつもの」と言う必要さえない状態である。
 話は変わるが、日本語というものは非常に誤解を招くものである。主語、述語、目的語の3つがあれば大方の会話は成立してしまうやっかいものである。時には主語も述語もなくても通じることさえある。さらにこの状態でありながら倒置文なるものさえある。「ください。いつもの。」でも問題なく通じる。便利ではある。しかし、誤解を招く可能性が大いにあるのもまた事実である。


 話を戻そう。店員さんとこのような間柄である常連の私であるが時に失敗もする。時に、大きな誤解を招いてしまうこともあるのである。
「いつもの店員さんください。」
この時、初めて注文を聞き返されてしまったわけである。
恥ずかしそうに私は「いつものください。」と言いなおした。
あの時、何故「店員さんください」と言えなかったのだろうか・・。